新しく介護施設に来られるおばあちゃんは一体どんな方なのか

花の写真 介護

 私はある介護施設で、もう10年働いているベテラン職員です。

毎日、食事。

入浴。

排泄。

利用者さんたちの“ふつうの一日”を支えるだけで、時計の針はびゅんびゅん進みます。

もちろん、ただ忙しいだけじゃありません。

ふっと生まれる隙間時間に、私は認知症を抱えたじいちゃん、ばあちゃんたちと話をします。

私は40代。

でも、ばあちゃんたちは90代。

年齢差、だいたい半世紀。

なのにばあちゃんたちは、私を見るたび口をそろえてこう言うんです。

「若いねぇ〜。かわいいねぇ〜。」

……いやいや、私40代ですけど。

でも、言われたらちょっと嬉しいのが悔しい。

廊下を少し歩くだけで、ばあちゃんたちはニコニコしながら手を伸ばします。

私の手を、まるで宝物みたいにさすってくるんです。

「ありがとね。」

その一言に、今日の疲れがふわっと軽くなる。

そんな、いつもの日々でした。

――あの日までは。

ある日、この施設に新しくおばあちゃんが入って来ることになりました。

入所が決まると、職員同士でざわつきます。

「どんな人かな?」

「歩ける?車椅子?」

「夜間の動きはどうだろう?」

他施設での情報を読んだり、聞いたり。

みんなで想像しながら、その日を待ちます。

そして始まるのが、いわゆる“受け入れ準備会議 in 現場”。

センサーをどこにつけるか。

ベッドの高さはどうするか。

車椅子は、できるだけ自分でこげるタイプがいいか。

椅子の高さは合いそうか。

体格は?足の力は?転倒リスクは?

職員同士で、あーだこーだ言いながら決めていきます。

でも結局、本人が来るまで確定できないことも多い。

「まぁ、来てから微調整だね。」

そう言いながら、ベッド周りを入念に整えていきました。

そして、しばらくして。

新しいおばあちゃんが、入所してきました。

第一印象は――

おとなしい。

よそよそしい。

上品。

言葉数は少なく、静かに周りを見ている感じ。

職員の間に、安心の空気が流れました。

「落ち着いてる方でよかったね。」

「センサーも過剰じゃなくて大丈夫そう。」

そんなことを話しながら、その日の夜を迎えました。

夜勤は職員2人。

フロアは静かで、あとは見回りと記録。

いつもの夜のリズム。

……のはずでした。

ピンポン、ピンポン、ピンポン。

PHSが鳴りました。

新しく入ってきたおばあちゃんの部屋番号。

私は一度、画面を消します。

でも、すぐまた鳴る。

ピンポン。

ピンポン。

ピンポン。

「え、連打?」

胸の奥がキュッとなって、足が勝手に速くなる。

“転倒かもしれない”。

“ベッドから落ちたかもしれない”。

頭の中で最悪の想像が走り出します。

私は廊下を走りました。

夜の施設って、静かすぎて怖い。

自分の足音だけがやけに大きく響くんです。

部屋に着く。

急いでドアを開ける。

中は暗い。

足元灯だけが、ぼんやり床を照らしていました。

窓の外は真っ暗で、カーテンが少しだけ開いている。

冷たい夜の空気が、すーっと入ってくる感じがしました。

「〇〇さーん、大丈夫ですか?」

返事がない。

ベッドの上にも……いない。

一瞬、背中がゾワっとしました。

「え、どこ……?」

私は視線を部屋中に走らせます。

床。

椅子の陰。

トイレの方向。

……いない。

そのとき、ベッド横のあたりで、妙な“気配”がしました。

私はゆっくり近づきます。

そして、見つけました。

おばあちゃんは――

ベッドの横にあるゴミ箱に、頭を突っ込んでいました。

……ゴミ箱に。

……頭を。

私は脳が一瞬フリーズしました。

(え?ゴミ箱?)

(え?頭?)

(え?上品どこいった?)

現場は一瞬で緊張から、別の方向の緊急事態へ切り替わります。

「〇〇さん!?どうしました!?大丈夫ですか!?」

私は声を抑えつつ、必死に駆け寄りました。

心配と、笑ってはいけない気持ちと、混ざり合って息が変になります。

だって、こちらは心配で心臓が飛び出そうなのに、視界に入ってくるのは“ゴミ箱に頭を突っ込んでいる姿”なんです。

おばあちゃんの肩が、小さく動きました。

それからは見守りが難しいとなり夜勤の時間帯は起きておられる際は夜勤での見守りが必須となった。

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